h.Tsuchiya

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五月病とこぬか雨

 北日本の島から進学で上京し、最初に借りた部屋が武蔵小金井駅7分のアパート。4畳半に小さな流し。トイレと洗濯場は共同で全部で10人が住んでいた。当時、初めての一人暮らしだと「5月病になりやすい」と言われたが、この頃は聴かない、「5月病」というのは、家族恋しのメランコリー症候群のことだった。「自分はしっかりしているつもりだし、別に親も田舎も恋しくない」と気持ちを張っていたのだが、その5月になって、やたらと細かい雨の日が続いた。秋なら「霧雨」だが、春のこんな雨は「こぬか雨」という。精米して出る細かい米ぬかのことだ。そんな雨を、ゆがんだガラス窓越しに眺めていたら、なぜか涙が出て止まらくなった。「こ、これって”5月病”か?」と焦り、自分の弱さ、脆さに気がついた。……それから半世紀、色々あって今もやっぱりひとり暮らし。何十度もこぬか雨の季節を過ごしたが、いつも胸の奥深いところがシュクシュクと水っぽくなる。まだ、完全には枯れてないのかも……