h.Tsuchiya

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三国志v.s.太平記

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 「三国志」(演義の方)という、長い物語でかつ永く愛読されている史劇なんて他にあるだろうか? その登場人物の多彩さ、人間描写の深さ、物語の起伏……。日本でこれに匹敵するものなんて残念ながらない。かろうじて「太平記」ぐらいかと思う。ボクはこれを、Kindleの無料本で読んだ。吉川英治の傑作だと思う。

 ともに似ているのは、敵味方が複雑に入れ替わり、始終戦乱に明け暮れて、昨日の豪傑が今日は倒れてという流れ。主人公の劉備足利尊氏も、どこか茫洋としていてつかみどころのない性格なところも似ている。長い時間をかけて、民衆の間に、ほとんどが講談や芝居の形で語りつがれてきたのも似ている。

 でも、「三国志」が、戦略・軍略の面白さでわくわくさせられて話の展開を愉しむのに対し、「太平記」がなんとなくウェットな情緒に流れて話が進むのは国民性の違いだろう。影のお主人公の人間的スケールもだいぶ違う。片や曹操(写真は、中国のTV)が圧倒的に強く、でかい人物なのに、此方の後醍醐天皇は、目端の利きすぎる策謀家に過ぎない。

 どこまで史実かは、この際、問題にはならない。人々がわくわくしながら楽しんで、かつ長い時を経ても消えることのない物語を持っていることに価値がある。でも、これからこの手の物語が、どこかに生まれるのだろうか?塩野七生の『ローマ人の物語』にも期

待しているのだが、我々東アジアの島国に住んでいる人間には、どこかディテールがうかめないもどかしさがある。どんな肉を食べ、どんな酒の飲み方をし、女はどこでその天性の賢しらさをみせるのか? ……。そういう細部が見えないのが惜しいのだ。

 全然趣向は違うが、英国の「アーサー王伝説」も欧米の文化圏には大きな影響を与えてきただろうが、これも日本人で面白がる人は多くないと思う。「カンタベリー物語」の破天荒さの方が面白いが、こちらは、さらに趣向が違いすぎる。

 面白い物語、読みたいなぁ。