h.Tsuchiya

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先達へのオマージュ

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「先達」とは、ある分野に精通して他の人を導く人のことだが、「徒然草」では、社寺の参詣で知ったかぶりしてとんでもない間違いをする人を見て、兼好は、「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」(ちょっとしたことでも、先に立って案内してくれる人は必要なもんだ」とシニカルにつぶやいている。その逆に、「先達」たちの足跡、作品に対して敬意を忘れず、オマージュ(賛辞)を呈する後輩というのもいる。

 2013年公開の米映画『ミッドナイト・ガイズ』(原題: Stand Up Guys)を、今夜YouTubeで観て、そんなことを思った。主演は、アル・パチーノ(当時72歳)、クリストファー・ウォーケン(同70歳)、アラン・アーキン(同79歳)の3人。そう、アカデミー賞を獲ったかつてのイケメン俳優たち。筋は、クリストファー・ウォーケンが、刑期を終えて出所するアル・パチーノを迎えに行くところから始まる。ネタバレになってもつまらんから、概して言うとクライムコメディ。老いさらばえた3人のワルが、”最後の夜”をハチャメチャに過ごすのだ。これを1963年生まれのフィッシャー・スティーヴンスが監督しているのだが、目を疑うほどの3人の老残ぶりはほんとにひどいのに、どこか尊敬の心が出ているし、3人もまた実に楽しげに演じている。ちょうど、子供と父親たちの関係にも似ている。

 老残ぶりを余裕たっぷりに演じている映画なら、大好きな「スペースカウボーイ」(監督・主演クリントイーストウッド 現85歳)は、別格として、「最高の人生の見つけ方(The Bucket List)」のジャック・ニコルソン(現78歳)や、「ヴィンセントが教えてくれたこと(St. Vincent)」のビル・マーレィ(現64歳)もそうだ。怪優ニコルソンはともかくとして、ビル・マーレィなんて「ゴーストバスターズ」の面影はさらさらない。いずれも面白い映画ではあるけど、今日のテーマとはちょっと違う。

 日本でこれに類した「先達オマージュ」映画はあるか? 才人の岩井俊二(現52歳)による「市川崑物語」がある(妻にして脚本を担った和田夏十物語でもある)。もう一つ思いつくのは、木下恵介が、戦時中に映画「陸軍」で非難された後、母を疎開させるエピソードだけを取り上げた「はじまりの道」(2012年)がある。撮ったのは、アニメ監督の原 恵一(現55歳)。残念ながら日本では、団塊世代の監督を若いジュニア世代がオマージュを捧げた映画というのは寡聞にして知らない。亡くなった相米慎二森田芳光の再評価も聞かない。ていうか、これという人材が見当たらないのではないか(TやOなど、敢えて、名前をあげたくない奴もいる)。

 映画に限ったことではない。歌や小説でも、あるいは政治でもいいのだが、文化というのは、「先達へのオマージュ」を継承・再生産できるパワーなのではないかと思う。日本の文化力は、かつてないほど低いという気がする。