h.Tsuchiya

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ハッピーエンドのお芝居はいかが?

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 「ヤルタ」話に続いてナイチンゲールのことを書こうと思っていたが、4月も半ばになることに気づき、賞味期限?付きの話を先に書くことにした。それは4月27日に千秋楽を迎える松竹歌舞伎の『ぢいさんばあさん』だ(写真:©松竹)。12年前の「孝玉コンビ」が仁左衛門玉三郎となって5度目の共演をするので話題にもなっているが、去年12月には勘九郎菊之助でもやっているから、かなりの人気演目のようだ。原作は森鴎外、脚本演出は宇野信夫で1951年に初演。ネットにはレアな動画として、1973年の先々代勘三郎長谷川一夫の舞台が丸ごと載っている。消えないうちに観てみたら(これは写真使えないなぁ)。
 話は、新婚仲良しの夫婦が、夫の刃傷事件で離ればなれに暮らすことになる。それが37年ぶりに再会し「人生をやり直そう」と手を取り合うところで幕、というもの。設定は夫71歳、妻66歳。これが高齢化した観客に受けている……今年(2022年)が鴎外生誕160年、没後100年に当たることも関心を集める要素かもしれない。
 原作の方は青空文庫ですぐ読める短編だ。鴎外は大正に入ってから5年間くらい、ずっと歴史小説を書いてきた(「興律禰五右術門の遺書」「阿部一族」など)。「ぢいさん~」もその流れだが重くはない。典拠としたのは狂歌で知られる太田南畝(別号:蜀山人)の『一話一言』だという。一連の歴史小説もそうだが、この物語でも鴎外は「史実離れ」して創作していると学者たちは指摘する。そりゃ当然だろう。司馬が龍馬を「創作」したのも同じで、作者の想いと作劇上の「剪定」が加わる。なぜそうしたか、それがどんな意義を持つか、を探るのが学者の仕事だ。 
 また原作を芝居化するには「原作離れ」も必要だ。「ぢいさん」の芝居は、原作にない桜吹雪や若夫婦の設定、座布団や眼鏡など小道具使いの演出がある。これで「いいなぁ」と心が動く……さてさて、たぶんもう観られない美男美女のリアル老け役(仁左衛門78歳、玉三郎71歳)の芝居、「一幕見」でいいからなんとか観に行きたいなぁ。