h.Tsuchiya

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「才人」がたくさんいる安心感

 昨日はYpuTubeで相米慎二の映画「セーラー服と機関銃」「台風クラブ」「お引越し」を観た。とくに「お引越し」は、離婚しそうな夫婦の狭間になって悩む11歳の少女の話。ついボクも、もう何十年もあっていない自分の娘の気持ちを考えて辛くなった。それは別にしても、ボクより一つ年上で、53歳で亡くなったこの人の才能に驚いた。どういう才能かというと、オフビートつまりどこか調子っぱずれなまま話が進行するのに、全体から強いメッセージがある。
 こんな作風だから、制作現場ではかなりフリーな空気なんだろうと思ったが、実際はかなりシビアな指導をする人だったらしい。(Wikiによると、『ションベン・ライダー』に出演した永瀬正敏は「撮影は、とにかく厳しいなんてもんじゃなかった。一万回くらいぶっ殺してやりたいと思った。」と話している。だが撮影の最終日に、相米に「よく頑張ってくれたな」と言われたときは号泣したという)。うむ、無頼で奔放そうで、オフビートな演出もかなり計算ずくだったのだ。うむ、マネできない才能。

 そして今日は、岩井俊二の「花とアリス」「スワロウテイル」「LOVE LETTER」を観た。この人はまさに分かりやすい「才人」で映像も、脚本も、音楽も、俳優も全部自分でこなしてしまう。コマーシャルビデオからドラマも作れるし、市川昆好きで、彼へのオマージュ・ドキュメンタリーも作っている。でも、ボクは、十五も年下のこの人の本当の才能はこれから開花するように思える。今のように綺麗過ぎない映像分野でだ。もっと年取って、もっと不細工になって、女にもてなくなってから見えてくる世界を映像にしてほしい。
 それにこの人は小物や女優の使い方がうまいのも何だか妬ける。蒼井優とかCHARAとか中山美穂,なんて全然「演技」しているように見えない。いや、周囲の役者さんに過剰気味の演技をさせることで、彼女たちをナチュラルに見せているのだ。このあたり……したたかだ。

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 他にも「タイガー&ドラゴン」や「あまちゃん」でジジババにもやっと知られるようになった宮藤官九郎という「才人」もいるし、きゃりーぱみゅぱみゅのプロモ作っている田向潤もいる。ど忘れしたけどアニメの監督たちにもずいぶんたくさんの「才人」がいたと思う。日本のコンテンツ力が弱っている、ガラパゴス化だと言われて久しいが、こういう「才人」が同時代にいる(ま、故人もいるが)ということがすごいと思う。日本が、ハードのモノつくりではなく、こういうソフト分野で世界から尊敬と富を集められるのではないかと楽天的に思えてくる。

 いやいや同時代映像作家だけではない。戦前戦後の名作を作り、世界の評価を集めた先輩たちも多い。さらに決してまだ十分とはいえない評価で、再評価されるべき人も多い。「有りがたうさん」の清水宏、「幕末太陽伝」の川島雄三に「楢山節考」の木下恵介、「裸の島」の新藤兼人……。こういう先人の足跡と同時代人の動きを橋渡しして、「才人」の時間軸、歴史的蓄積を見せていくのはボクら映画好きジジイの役目だと思う。さらに、「才人」と「才人」を結び合わせてシナジーを生むのも役目だろう。……あぁーっ、何だかプロデューサー根性がうずきだした。