h.Tsuchiya

My NEWS

楼上の蟻のごとく

 トピ職の男たちが、地上9階に相当する足場の解体をしている。筋交い(ブレス)、建てワク、先行手すり、踏板(アンチ)、階段……と順番通りに部品を一つずつ手作業で運び、滑車(ホイスト)で下ろして行く。地上の受け手がそれらを手際よく積む゙。この階の高さは約30m、横幅は200m。職人たちの姿が高楼にうごめく様子は蟻の営みに見える。炎暑の下で働く姿に敬服する(写真はひと月前に撮影。現在の高さはこの3分の2)。
 彼らをなぜ「トビ=鳶」と呼ぶのかは諸説あるが、江戸期の火消しから始まったらしい。とくに加賀藩の大名火消し「加賀鳶」のイナセぶりは有名。その必携道具がトビ口(ぐち)だったから、これが由来だろう。火消しの勇姿は大友克洋のアニメ「火要慎」(shortpeace)でも見ることができる。
 トビは昔からDQN職の代表のように言われて来たし火消し(別名、臥煙=がえん)もそうだった。だが、経験を積むほどに担う仕事の難易度は上がる。効率的に、計画的に、緻密にさらにはコンプラにも配慮しないとトビの職長は務まらない。また高齢化も進んで現場によっては高所作業禁止にもなるから、将来のキャリアプランも考えておく必要がある。  ある時、ベテランのトビが話しかけて来た。「体が動かん。あと数年したら警備員になろうかな?」。本気でないのは判っていたし、相談されても自分は勧めなかった。一旦、高所から俯角で見た人には、地ベタから仰角で世間や人間(じんかん)を見続けるのは難しいだろう。