成瀬巳喜男『流れる』(1956)は芸者置屋を舞台にした映画で、原作は幸田文。女優陣がすごい。田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子、岡田茉莉子、栗島すみ子……錚々たる大女優たちが持ち味を出して競演。田中絹代の女中役、山田五十鈴の三味線芸、2人の大先輩である栗島すみ子の貫禄、杉村春子のキレッキレ東京弁と見どころたっぷり。この齢になって観るから分かる世相や人情の機微もある。成瀬の描く女は哀しく優しい。松竹蒲田では、後から入社した小津安二郎や清水宏らに抜かれて長い下積み。戦後に林芙美子原作の『めし』や『浮雲」で高い評価を受けたが、多分に職人気質の監督。そりゃそうだ、彼はわが四谷の縫箔職人の息子。クロサワが一番尊敬していたらしい。