h.Tsuchiya

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「モノ言えば唇寒し」は秋の心?

 この句は「秋の風」と結ぶ(秋は穐の字)。秋もめっきり寒くなって、話そうと口を開けたら冷っとした……という繊細かつ新鮮な感覚。さすが芭蕉、と言いたいところだが、一般的な解釈は「人の欠点をあげつらったあとは、自分が不快な気分になり、対人関係も気まずくなる」という意であり、さらには「不用意に余計なことを言うと、とかく人の恨みを買って災いを招く、ということ」(『三省堂故事ことわざ・慣用句辞典』)になっている。道徳クサい諺並みに扱われているのだ。これはオカシイのではないかと思う。
 こうなった理由はある。出典の「芭蕉庵小文庫」には、句の前に「人の短をいふ事なかれ 己が長をとく事なかれ」とあって「座右の銘」との題もある。なるほど「口は災いの元」だ。だが、これは後世の編者がくっつけたもので、芭蕉にこんな説教趣味は似合わない。
 ところが、世間には「自分も座右の銘にしたい」と句碑まで作った人がいる(熊谷・報恩寺、内田朴山・明治24年)(写真)。どうも粗忽モンじゃないかね?
 いや、俳句の考証噺はどうでもいいんだ。なぜ、秋はこういう風に内省的な気分に似合うのかなと思っただけ。「秋の心=愁い」と書くしね。この愁いと「憂い」はどう違うかなんてことをいうヤボもいるが、それもどうでもいい話。今日のブログのBGMは、来生姉弟の『シルエット・ロマンス』(大橋純子版)、~♪窓辺の憂い顔は 装う女心♪~てね。ちょっと色っぽくていい歌でしょ?