h.Tsuchiya

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長月の奇夢夜話(1)

 HCU(高度治療室)やICU(集中治療室)では、食事も排泄も自覚ないまま進み、とくに夜は無音・無刺激の状態になる。こういう環境で長い時間過ごしていると、現実離れした奇妙な夢を見ることが多かった。レム睡眠で半覚醒状態だから覚えている。いや、何とか忘れまいと夢の細部を補正さえする。そして運が良い時はメモに残せるが、メモが片言隻句だから後で読み返しても思い出せないことも多かった。この奇夢は見ている間はひどく面白かったのに……
 9月(長月)の夜話、実にアホっぽいよ(笑)

●01 都心を揺らすムカデ通勤
「ドッドッドッドッ」とリズミカルな音を立て、地面を揺らしながら走ってくるのは7~8人のサラリーマン。ヘルメットやひじ当てをしているものやネクタイを頭にまいたものもいるが、特異なのはその足元。輪っかに足を入れて前後が連結している。そう運動会のムカデ競争スタイルだ。目の前の信号で1人が足の輪っかを外して仲間に会釈して離脱した。そしてすぐ傍のビルに入って行った。足輪は簡単に装着。取り外しできる機構らしい。そうこうしている間に他の組も「ドッドッドッ」とやってきた。やや、反対側の車線も何組かが走っている。

●02 「アート麺 二郎」
「音楽マシマシ、美術抜きで」「文学だけマシマシ、あとは普通。麺バリかたで」……店に入って来る客がそんな注文をする。丼に載った具は、ひろうす(がんもどき)のような麩のようなもの。赤、緑、青などのパステル系の色をしている。赤いのは「音楽」で、七味のようなものを架ける具合でクラシックかポップスまで変化する。ただしそれは食べている本人の脳内だけで起きていることだから他人には分からない。「うむ、ビヴァルディは「冬」がいいな」なんてニヤついている。「緑」は美術、「青」は文学、他にも演劇や舞踊もあるようだ。アート音痴の自分は、まずは全部普通に入れてもらって、少しづつ味わうことにした。