h.Tsuchiya

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棄てる本の「余滴」(1)

 毎週の資源ごみの日に蔵書から数冊の本を縛って棄ててきた。そしてとうとう7段あった本棚も残るは数冊の文庫本だけになった。「本を棄てる」のは他のゴミを捨てるのと違って、「文化的価値」を踏みつけにするようで少し後ろめたい。これはレコードなどでも同じ気分だった。だが、適切な処分方法がない不要なものだから廃棄するしかないと割り切った。これまでも引っ越すたびにバサバサ棄てたり、あげたり置いてきたりした。モノとしての未練はない。だが、中味には懐かしさがある。棄てる直前になって「あ、この本は読み返したい」と想ったことが何度も(何冊も)あった。まるで旨い酒の最後のひとしずく(余滴)を惜しむように……そっと除けて通勤の行き帰りに読んでみた。すると昔と違う感慨が湧いて愉しかった。

●『星の王子さま』(サン=テグジュペリ
 80年前に出たこの本は世界で8千万部も読まれている童話。NHKの「100分で名著」シリーズでも取り上げているので要点はネットでも観れるが、新潮文庫の河野真理子訳の方がキーワードを優しく訳している(例:飼い馴らす→なつく)。有名すぎるキツネのせりふも「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」と訳している。でも、読み直して自分に刺さったのは、王子とバラの花との悲恋? プライドが高いのにひどく孤独そうな花=ツンデレ女に振り回されて、王子は逃げるようにして星めぐりの旅に出た。だが結局、最後にはその愛に殉じようとする……あるんだよなぁ、こういう情況って、人間、長いこと生きているとさ……(笑)。もう一つ気づいたのは、子どもに読み聞かせしたら面白いだろうということ。よくできた話というのは、子どもの好奇心、推理力、理解力をどんどん引き出すようになっている。そして影響力も深そうだ。